2011/04/23

日本の原発を受けたとあるドイツの教科書会社

最近は教科書会社もオンラインで教材配信の時代ですか。
ドイツでオンラインで教材が提供されていますが、先日、今回の”日本の震災”が
教材として提供されはじめました。中学から高校向けとされています。
http://bit.ly/gEEnuc


その内容は、
1. 日本の地震の発生要因について、地図(M1, M2)をみて説明する

2. 津波の成因を資料(M3)をみて説明する

3. 日本の矮小な国土と低地への資本集中、その文脈での福島原発に地震が襲い、放射能汚染の野菜や水が今日あることを踏まえ、
a) 日本がどれくらい原子力エネルギーからの脱却をはかるだろうか、M4を参照しつつディスカッションする
b) 3月15日のメルケルの7つの原発閉鎖と原発再考の声明に対して、多くの人たち(Viele Menschen)はそれを2011年の選挙を意識した、素早い政策転換であるとの見方を強めている。
「原子力エネルギー再開からの脱却はリスクを伴った転換である」という発言に対して、資料M5やインターネットを参照しながら、自分の意見を述べなさい(自分の立場を表明しなさい)。


ちなみに、参考資料として、
M1 日本:自然的リスク(日本地図スケール。海底地震が○、過去の陸震源域が●、季節風(台風)の移動方向→、活火山が噴火マーク、浸水頻発地帯=低地が灰色トーン、豪雪地帯が雪印、など)

M2 地震分布図(世界地図スケール。1900年以降の地震震源域がドットで示される。当然、日本にも集中している。)

M3 津波の成因(ドイツお得意のブロックモデル。逆断層モデルが超単純ではなく、あえて一段階だけ複雑化されていて、日本でも見たことないのでなんか複雑な心境。ドイツ人のブロックモデル魂を感じる)

M4 発電エネルギーの日独比較(円グラフ。日本はほとんど核エネルギー。ドイツは石炭、核、代替エネルギーがそれぞれ1/3くらいずつ)

M4(原文ママ。実質的なM5) ドイツの原発政策の転換―メルケルの計画延期(コラム。試作段階とかタブーはないとかのメルケルの発言が中心)


個人的な注目点としては、
自然地理的内容の理解をベースとしながら、その内容を矮小国土と資本の低地集中というクッションで原発に接続するあたりに、ドイツの人間―環境システム論の持ち味が発揮されています。きちんと内容的に接続しているような、しかしよくよく”学問的”に考えると話をずらされているだけのようなこの手法。ひとついえるのは、空間的には関連しあっています。
個人的にはここにドイツ人の持つ地理学観、つまり、地理的現象を人間が納得しやすいように提示するというドイツの地理学的センスをヒシヒシと感じます。

引き続いて、日本人が「地震慣れ」しているとか、情報が非常に鈍いとか指摘しつつ、それでも平静でいるような日本人像が描かれていますが、そのあたりもやっぱり基礎事実に基づきながら、多分に推測を含みつつ結局はドイツ人的判断に沿うようにうまく描かれていると思います。ちなみに僕自身は地理学的(風土論的)判断寄りで、ドイツ人的判断にも近く、日本人の「慣れ」の正体を見た気がします。

3. a)の日本人が原発をやめるか、という問いへの解答例として、
「日本人は原発を断念する可能性に関しては、非常に低いだろう」と書かれていて、
「ニュースを見る限り、日本人は原発に対して批判的でもネガティブでもなくみえる」という主観と、
「(M4のグラフを指して)日本のエネルギーの3/4が原発に頼っている」という”客観的”データ、
「日本はエネルギー資源がなく、代替エネルギーでは産業がまかなえない」で一本、となっています。
この辺りは地理というより、相手を納得させるストラテジーの問題かと思います。
ドイツ人ってよく喋るなぁと感じることと同根だと思われます。

感想として、
この教材で授業をすると、まず、なんでこんなところに原発を作ったんだという日本の空間的構造の無頓着さに目がテンになって、でもそれでも日本人は産業を重視していて原発はやめないんだろうという推理が働き、そのうえで自国ドイツを鑑みると、エネルギー確保の問題は日本とは別種だが、しかし転換期を迎えていて・・・しかも反原発の政治利用についても考えなければ、とまさに盛りだくさんの内容です。
ただ、資料を駆使することで、単なるオープンエンドを迎えないところを、日本は学ぶ必要があるのかもしれません。そうした合理的な話し合いを日本人が好むかどうかは別の話ですが。
「みんな、がんばろう」とかの方が、胸にジーンと来ますよね。 たぶん。

原発事故後のドイツ人の様子はハイデルベルクの宇野さんがたくさん報じていらっしゃいます。
ブログにもあるかなぁ。facebookにはたくさんありましたが。
http://fachwerk.exblog.jp/